106万円の壁が撤廃されるとどうなる?

社労士業務(こかげ社労士事務所)

2024年11月現在、税の103万円の壁が議論されています。

これと一緒になって論じられることの多いものが、社会保険料の106万円の壁です。

 

106万円の壁とは

パートタイマーなどの短時間労働者が社会保険に加入するには条件があります。

詳細はこちらをご覧ください。

その一つは、「賃金が月額88,000円以上」というものです。

月額88,000 × 12 = 1,056,000円ということで、年収106万円以上のパートタイマーは社会保険の対象となります。

それで、社会保険に加入したくないパートタイマーが意図的に年収を106万円未満に抑えようとするため、ここに壁があると言われるのです。

他の条件に「週の所定労働時間が20時間以上」というものがあります。1年は52週間とちょっとありますから、おおまかに計算すると1,040時間以上になります。

近年の最低賃金の引き上げにより、この勤務時間であれば106万円以上になる対象者が多くなります。最低賃金の全国加重平均額1,055円を適用すれば、1,097,200円になります。

それで、この形骸化しつつある106万円の壁を撤廃し、週所定労働時間20時間以上のパートタイマーは全員社会保険に加入するよう、制度が変更される方向にあります。

 

手取りを試算

106万円の壁がなくなり、賃金月額88,000円未満のパートタイマーが社会保険に加入した場合、手取りはどのようになるのでしょうか。

計算の手順としては、まず平均の賃金月額を計算します。次に社会保険料の一覧表を参考に、いくらの社会保険料かかるのかを確認します。雇用保険料も計算し、賃金からこれらを控除すれば、手取りが分かります。

 

ここで仮に、時給1,000円、1日の労働時間5時間、年間労働日数192日、(介護保険第2号被保険者に該当しない)40歳未満のパートタイマーを考えてみましょう。

まず平均の賃金月額を計算します。

平均の月額賃金

= 時給 × 1日の労働時間 × 年間労働日数 ÷ 12か月

= 1,000 × 5 × 192 ÷ 12か月

= 80,000円

次に、平均賃金80,000円の被保険者にいくらの社会保険料がかかるか、一覧表から確認します。ここでは、当事務所が所在する長崎県の2024年3月以降の保険料額表を利用します。

すると、報酬80,000円は78,000~83,000の範囲ですので、健康保険料(介護保険第2号被保険者に該当しない場合)は3,966円、厚生年金保険料は8,052円となることが分かります。ちなみに、会社はこれと同額を負担することになります。

さらに、賃金80,000円に対して雇用保険料が480円控除されます。(一般の業種、保険料率1,000分の6)

最後に、このパートタイマーの手取りを計算します。

手取り

= 80,000 – 3,966 – 8,052 – 480

= 67,502円

したがって、手取りは総支給額の8割ちょっとになる感覚でしょう。

【補足】

仮に給与から保険料が16%控除される場合、控除前の手取りを維持するためには、給与総額を19%増やす必要があります。(16%増やすだけでは足りないので注意!)計算式は以下の通りです。

X = 控除前の手取り金額 α = 給与に上乗せする金額 とする。

(X + α) × 0.84 = X

X + α = X ÷ 0.84

X + α = X × 1.19…

α = 1.19X – X

α = 0.19 X

つまり、元の給与の19%を上乗せし、その増えた給与から16%を控除すると、元の給与の金額に等しくなります。給与が増えると、その分控除額も増えるため、少し多めに上乗せする必要があるのです。

まとめ

パートタイマーが社会保険に加入した場合の計算方法を確認し、試算してみました。

手取りがかなり少なくなってしまう、と感じられるかもしれません。

時給を上げたり働く時間を延ばしたりしても、保険料額表から分かる通り、社会保険料はそれに応じて段階的に増えることになります。

社会保険料が上がれば、保険給付の額も上がります。社会保険に加入してメリットを享受するのがよいか、それとも週の所定労働時間を19時間以下に抑えるのがよいか、各自が選択することになるでしょう。

 

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