今回は、外国人材の活用について、日本が直面している課題を取り上げたいと思います。
日本の立ち位置
報道で知られているように、「技能実習制度」について問題点が指摘されています。
実はこの制度、海外からは強制労働とみなされています。米国防省が毎年公表している「人身取引報告書2023」で、日本はTier2にランク付けされました。
下はTier2の定義です。日本は、人身売買をなくすための最低限の基準を完全には満たしていない、という評価です。その主な理由が、技能実習制度です。
このことは、どのような影響を及ぼすのでしょうか。
日本で製造された製品が欧米の市場に流通できなくなる可能性があります。「Made in Japan」が高く評価されるのではなく、人権に抵触しているとみなされてしまうのです。そのリスクを避けるため、日本は技能実習から育成就労への転換を図っています。
技能実習制度と育成就労制度の違い
では、技能実習制度のどこが問題とされているのでしょうか。また、育成就労制度とどのように違うのでしょうか。
その一つは、転職の自由度です。技能実習制度では転職が制限されています。職業選択の自由は人権の一つですが、技能実習生は自由に転職(転籍)することができません。失踪者が多い原因になっている、とも言われます。育成就労制度では、転職の制限が緩和される予定です。
技能実習制度の別の問題点は、日本語教育が十分ではないことです。育成就労制度は受け入れる外国人を労働力として位置づけ、長期滞在を前提として日本語教育を重視しています。
取り組みやすい課題に転換しよう
コロナ明け、人材不足のために多くの会社が倒産しました。安い労働力を求めている会社ばかりではありません。従業員に正当な給与を支払えるだけの収益があるにもかかわらず、労働力不足のために倒産する会社があります。日本は人口減少と言われますが、外国人の移住者を織り込んでさえ、減少していくと予想されているのです。
それでも、日本で働きたいという外国人が大勢いれば、受け入れる態勢を整えることで問題に対応できる見込みがあります。ただし、近年の円安の影響で日本の賃金は相対的に低くなり、外国人にとって日本で働くメリットは下がりつつあります。
したがって、外国人材は、待っていれば来るというものではありません。手続も煩雑です。しかし、「人材不足」という課題を「外国人材の獲得」という課題に転換できるなら、そちらの方が取り組みやすいというものです。
社労士の活躍の場
社労士は経営者に伴走し、課題に一緒に取り組みます。外国人材を獲得するという課題に、社労士は何ができるでしょうか。
まず、外国人材を受け入れるメリットを経営者に説明することができます。外国の文化が社内に入るなら、職場は活性化します。事業を海外に展開する機会は広がります。オンラインの越境ECプラットフォームが発展しているので、以前よりもずっと簡単に、言語の壁を乗り越えれば自社商品を輸出販売することができます。メリットは他にもあるでしょう。社労士は、外国人材を受け入れて成功している他社の事例を数多く集めておき、話に説得力を加えることができます。
次に、外国人材が働きやすい環境づくりを支援できます。外国人材にとって一番難しいのは、日本語です。「空気を読む」ことを期待すべきではありません。平易な日本語で明確に指示しなければなりません。日本語の指示が分からないと、労働災害につながります。社内の掲示・標示を分かりやすい日本語に置き換えていくことにより、安全衛生を確保できます。ちなみに、英語には「プレイン・イングリッシュ」というものがあり、その日本語版と考えればよいと思います。業務上の指示や報告に、イラスト・数字・色分けを多用し、そもそも日本語を少なくする工夫もあります。
そして、すでにいる日本人の従業員にも説明する必要があります。外国人材を受け入れる必要性、受け入れることでどのような明るい展望があるか、日本人従業員に協力をお願いしたい点などです。説明不足だと、従業員の間に溝ができたり、外国人材が孤立したりしてしまうかもしれません。この点は、経営者に熱意を持っていただけるよう、よく話し合うことが必要です。
もし外国人材を採用できたなら、その待遇について見守ることも大切です。経営者が知らずに人権侵害をしてしまうこともあり得ます。生活を預かることになるので、住居の確保や在留資格の取得など、外国人材が安心して働けるようサポートが必要です。
まとめ
目指すものは、外国人材の採用と定着です。
社労士は経営者と協力し、会社の戦略として外国人材を獲得していくことができます。
外国人材の受け入れ態勢を整えたいとお考えの経営者の方は、こかげ社労士事務所にどうぞお問い合わせください。
【補足】
冒頭に挙げた米国防省の報告は、英語で記述されています。
医師は外国の医学論文を原文で読んで勉強していると言われますが、社労士の場合はこのような報告を読み込む必要があるように思われます。
「英文で読むのは骨が折れる」という方のため、こかげ社労士事務所では、今後も海外の報告の要点を紹介していきたいと思います。